【私が通訳になるまで25】通訳学校を最後まで続けるコツ

 

 こんにちは、英語同時通訳者オンライン英語・通訳講師の山下えりかです。

 

 前回前々回では通訳学校の過酷な現実をお伝えしました。自分で読み返してもあまりに救いがない内容になってしまっていたので、今回はそんな過酷な通訳訓練をやり遂げるために私が実践していたコツのようなものについて書こうと思います。

 

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 コツのようなものとは言っても、何か特別なテクニックがあるわけではありません。あったら私が教えて欲しいくらいです(笑)。通訳訓練の負荷を減らすために一番効果的なのは言うまでもなく、実力をつけることです。しかし実力はそう簡単に短期間でつくものではありません。私は自分の成長速度にギリギリ追いつかないくらいの速度で進級していたため、実力的にはいつもあっぷあっぷでした。

 

 最初のクラスの準備科からそんな状態でしたから、せめて入学を決めた時の気持ちを見失わないために、私は早いうちから自分の中にいくつかの指針を作りました。その指針、すなわち心構えこそが実力を伸ばす以外では私の知り得る限り最大のコツです。

 

1.学校の方針や講師の先生方の言うことを愚直に守りついて行く。特に小松先生の言うことには一切の疑問を持たない。

 

2.全てのプライドは学校に持ち込まない。

 

3.クラスメイトと自分を比べない。人の実力に嫉妬しない。自分が一番の若輩者という意識を常に持ち、クラスメイトの実力をきちんと認め、敬意を払い、学ぶ。

 

4.英語を好きでい続けること。

 

5.「低空飛行でもいい。墜落しないことが大事。」

 

 ひとつ目は、サイマルアカデミーに入ると決めた時、一番最初に作った決め事です。これは私の高校時代の経験に起因します。

 

 以前の記事でも少し触れましたが、私の通った高校はいわゆる進学校で、高校入学初日から大学受験の話をされるような学校でした。近隣に似たような学校は数校あり、大学受験のために進学塾を黙認または推奨する学校が多数派の中、私の高校は進学塾反対派という方針の学校でした。「分からないことがあれば学校で先生たちに聞け。塾のせいで学校の勉強を持て余すくらいなら塾になんか行くな。」と、1年生の頃からよく言い聞かせられていました。

 

 その言葉通り、先生方は質問に来る生徒には真摯に対応していたと記憶しています。と他人事のように言うのは、私は学校が一番力を入れていた数学で1年生当初から躓き落ちこぼれ、高校留学を契機に英語の成績だけ伸ばして進学も国外というイレギュラー分子だったので、先生方のお世話になることも塾に行くことも無かったのです。これが結果的に今に繋がっているので、自分の選んだ道が悪かったとは思っていません。

 

 しかしそれはそれとして、卒業の頃になって気づいたことがありました。先生方の言う通りに塾へ行かず学校の勉強を優先し、分からないことは学校で先生方に聞く、というやり方をしていた生徒の方が、高確率で希望の進路に進んでいたと。なるほど伝統を謳う学校の方針には確固たる根拠があり、守れば相応の結果も付いてくるのだと納得しました。あれに気づくのがもう3年半ほど早ければ、今は全く違う人生だったかなと思ったこともしばしば(笑)。

 

 通訳学校という場所がとても特殊な場所で訓練は過酷を極めるという話は、サイマルアカデミーに入る前に集めた情報から知っていました。それでも通訳者になりたい、サイマルで同時通訳の訓練を受けたいという思いは止まらず、入学を決めた時に頭をよぎったのはこの高校での経験でした。「通訳ならサイマル」と言わせるだけの伝統と実力を兼ね備えた通訳学校に入るのならば、最初から最後まで先生方の言うことに一切の疑問を持たず、良いと言われた通りに素直に学ぼうと。

 

 こういう考え方は狂信的と思われるかもしれません。その通りです。サイマルアカデミーに通っていた頃の私は、狂信的な信者でした。きっと今でも、それを信じる気持ちは変わりません。盲目なまでにサイマルアカデミーを信じて進んだことが、最終的に結果に結びついたのですから。

 

 さて二つ目。

 

 実はこれがサイマルアカデミーでの私が発揮した一番の強さでした。「失うものも傷つくことも何も無い」と言う強さです。実際20代前半当時の私は経験も無く、英語力も(通訳学校的には)人並みレベル、通訳スキルは素人同然、知識は全然足りない、ナイナイ尽くしでした。下手くそな訳を鋭い言葉で酷評されても、知識不足でトンチンカンな訳になって咎められても、すんなり自分の至らなさを認め次につなげることができました。

 

 これはあくまでも私の私見ですが、守りたいもの(実績や実力)がある人の方が、何も持たない人よりも実力面で有利な一方、叩かれた時に折れやすい印象でした。それで辞めてしまった人も数人見ています。

 

 通訳訓練において「何も持たない」は苦労の最大の要因であると同時に成長の最大の武器であり、技術や知識の吸収力を高める原動力となります。ですから「全てのプライドは学校に持ち込まない」と決めていました。

 

 ただし学校から外に出たらある程度プライドを持つことも大切だと思います。プライドは自信と表裏一体です。通訳学校では「できない子」でも一般的には高い英語力を持っていることにきちんと自信を持つことで、精神のバランスを保つことも大切です。

 

 三つ目は以前別の記事でも触れましたし、書いてある通りのことなので省きます。

 

 四つ目、英語を好きでい続けること。

 

 「英語が好き」が一番の動機で原動力だった私にとって、英語を好きでいることは何よりも大切なことでした。しかし前々回の記事で書いた通り英語が怖くなり触れるのも億劫になってしまった時期もあったほど、過酷な通訳訓練は私の英語愛を激しく揺さぶりました。前回書いた通り笑って「英語が好き」と言えない時期もありました。好きと言えるほどきちんと向き合えていない気がして、英語そのものに対し自信喪失気味でした。

 

 通訳訓練の中で英語を好きでい続けることは、簡単なことではありません。通訳訓練が進むにつれ、その中で英語を好きでい続けるのは難しくなって行きます。しかしだからと言って諦めてしまっては、一番の原動力を失うことになります。「英語が好き」で始めたのなら、英語を好きでい続けなければいけません。

 

 そこで私が実践したのは、好きな映画や音楽などを使い、リラックスして英語を楽しむ機会を持つことでした。あえて通訳から切り離して英語を純粋に楽しむ時間を作ることで、英語そのものに対する「好き」は何とか維持できました。

 

 五つ目。

 

 「低空飛行でも良い。墜落しないことが大事。」

 

 これは私が作った指針ではありません。通訳科時代にお世話になった先生が、通訳をする際の心構えとしてよく語ってらした言葉です。苦しかった後半の2年間の入り口あたりでこの言葉に出会いました。通訳作業そのものだけでなく、通訳訓練や、日常の様々なことに当てはまることだと思います。これもまた苦しかった訓練時代の私を支えてくれた大切な合言葉でした。

 

 以上、私がサイマルアカデミー生時代に守っていた、通訳訓練を最後まで続けるコツでした。

 

 ...つまり最後の最後は気持ちの問題、と言うことです。

 

 

 

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