通訳さんは日本語と同じように英語が分かるんですか?

 こんにちは、東京在住英語同時通訳者の山下恵理香です。Skypeでオンライン英語指導オンライン通訳訓練講座も提供しています。 

 

 日本で「英語を話せる人」として生きていると、非常によく投げかけられる質問があります。高校留学後から今までで、英語に関しては間違いなく一番された質問です。

 

 「日本語と同じように英語が分かるんですか?」

 

 実はこの質問に対する私の答えは、高校留学直後、アメリカの大学を中退して帰国した直後の10年前、そして現在と変化してきました。今回はその答えと理由についてお話ししたいと思います。 

 

 過去に遡る前に結論から書いておくと、現在の私の答えは「NO」です。いくら私が通訳者で留学経験があるとは言っても、やはり英語は外国語であり、理解力、思考力、表現力のすべてにおいて母語である日本語を超えることはありません。とりあえず今のところは、と付け加えておきます。理由は後ほど。

 

 今から約15年前、この質問に対する高校生の私の答えは、「ある程度は。でもまだ日本語の方が楽です」でした。同じレベルで使えるようになる気満々な生意気さはまあ若気の至りということで(笑)

 

 日常会話は問題なくこなせる程度の英語力はついていましたが、学校生活ではまだ苦労する部分を残したままでの帰国でした。それに当時はまだ英語でニュースを聞いてもちんぷんかんぷん。日本語で説明されてもまだわからないことが多い頃でしたし、知識不足に加え語彙も表現力も不足していては当然のことです。

 

 アメリカでの2年間の大学生活を経て帰国した10年前の私の答えは、「そうですね。大体は」でした。一般的な日常会話に限って言えば、これはこれでひとつの答えです。英語の使用範囲を日常的なものに限定するのであれば、今でもこの答えは変わりません。当時の私は日常会話に加え、学校生活にも困らない程度の英語力を身に付けていました。アメリカでの生活に一通り困らないレベルの英語力があるとすればそれは、「日本語と同じように英語が使える」ことだと考えていました。しかし英語でのニュースや難しい話は相変わらず、聞いてもよくわかりませんでした。日本語のニュースは高校生の頃よりは見聞きするようにはなっていたものの、その部分では高校生の頃からあまり変わっていませんでした。

 

 そこから10年間でなぜこの答えが「NO」になってしまったのかと言うと、通訳訓練を始めた10年前から卒業後の今に至るまで、英語にかけた数倍の労力と時間をかけて日本語を鍛えてきた結果です。先述の通りニュースや難しい話が英語で分からなかった大きな原因は、知識不足でした。そんな状態から無謀にも通訳者を志した当時の私にとって、知識量を増やすことは何よりも急務でした。毎日英語日本語の両方でニュースを聞き、新聞やネット上のニュースを読み、政治、経済、国際情勢関連の特集や討論番組を片っ端から観ました。

 

 その中で自然と出来上がった私の勉強の流れは、初めて聞く話や詳細を調べたい事柄はまず日本語で知識を入れ、日本語で理解ができてから英語で同じ内容のものを聞いたり読んだりして、英語での表現や単語を覚える、というものでした。そのため物事の理解に最初に使う言語は優先的に日本語でした。それを繰り返して行く中で、日本語の理解力、思考力、表現力は、英語のそれよりもずっと速く深く成長して行きました。

 

 その結果日本語の総合力が飛躍的に伸び、英語の力との間に差が生まれたのです。ですから、この質問に対する現在の私の答えは「NO」なのです。

 

 決して英語の勉強をさぼっていたわけではありません。10年前「そうですね。大体は。」と言っていた頃とは比較にならないほど、当然英語力も伸びています。英語での語彙や表現を覚えることは知識を入れるプロセスの一部でしたし、日本語での理解力や思考力が高まれば高まるほど、それは英語で理解し考える力にも繋がって行きました。いつか私の英語の総合力が日本語の総合力に完全に追いつくことがあるとすれば、その時には「はい、どちらも同じです」と答えることでしょう。

 

 要するにこの質問への回答は、「同じように分かる」というレベルをどこに設定するかで変わります。日常会話に限るなら「YES」ですし、総合力で考えるなら今のところはやはり「NO」です。

 

 そしてこの経験から考えるのは、外国語を伸ばすのに必要な母語の重要性です。後付けで外国語を学ぶ場合、その外国語の能力が母語の能力を超えることはありません。つまり母語の能力が低ければ、外国語の能力の伸びしろも知れています。逆に母語の力がしっかりしていれば、外国語であっても高い能力を身に付けられる可能性が広がります。

 

 言葉の力を伸ばすのは知識、理解力、思考力です。それらを育てるのに必要なのは母語の力です。「言葉の力の半分は知識であり考える力」と言うのが、私の師であり同時通訳界のレジェンドである小松達也先生の教えです。サイマル・アカデミー在籍中から今に至るまで、言語学習における私の大切な指針です。

 

 こういう理由も手伝って、私は今年政府が発表した「英語教育開始年齢引き下げ(小3)」には大反対なのですが、長くなるので続きはまたの機会にいたします。

 

 

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【About Erika】

職業:英語同時通訳者(個人/フリーランス)

現住所:東京

留学歴:3年(アメリカ)

特技:柔道(初段)、ピアノ(弾き語り)

趣味:料理、お菓子作り、食器屋巡り

楽しみ:正月の箱根駅伝、2か月に1度の大相撲観戦(テレビ)、年に数回の柔道国際・国内大会テレビ観戦、年に数回のブロードウェイミュージカル日本公演、不定期の札幌旅行