高畑勲監督の映画と多角的な視点と知識の大切さ

 こんにちは、英語同時通訳者オンライン英語・通訳講師の山下えりかです。

 

  先週、ジブリ映画の監督として有名な高畑勲氏の訃報をニュースで知りました。まずは多くの素晴らしい作品をこの世界に遺してくださったことに感謝し、心よりご冥福をお祈り申し上げます。

 

  このニュースを聞いた時、とても寂しい気持ちになった自分に驚きました。しかし考えてみればそれは当然のことでした。私は1985年生まれで、ジブリの最初の長編アニメ映画である「風の谷のナウシカ」が公開されたのがその前年の84年です。そして84年以降、たった5年の間にジブリは、「天空の城ラピュタ」「となりのトトロ」「火垂るの墓」「魔女の宅急便」を世に送り出し、90年代には「おもひでぽろぽろ」「紅の豚」「平成狸合戦ぽんぽこ」「耳をすませば」「もののけ姫」と続きます。幼少期から多感な思春期までをタイムリーにジブリ映画とともに過ごしてきた世代なのです。ジブリ映画が好きだった叔母が、夏休みに新しく公開されたジブリ映画に私と妹を連れて行ってくれた想い出は今でもとても印象深く、7月下旬になるとジブリ映画が観たくなるという条件反射が今も染みついているほどです。この訃報が悲しくないはずがありません。

 

 私の世代はこのように、登場人物たちと自分を重ねられる絶妙なタイミングで数々のジブリ映画が公開されてきたとても幸運な世代です。しかし当時の私が感情移入できたのはほとんどが「宮崎作品」と呼ばれる作品で、高畑監督の作品は子供の私には難しく、正直「面白くない」と感じていました。「ぽんぽこは絵は可愛いけど話が面白くない」「おもひでぽろぽろは学校という子供の狭い社会の描写が鮮やかすぎて気持ち悪い」「火垂るの墓は怖い」といった感じです。

 

 しかし33才になった今改めて高畑監督の作品を観てみると、子供のころとは全く違う印象を受けます。「ぽんぽこ」には人間社会の成長が様々なものの破壊と共にある人の業の深さと、大きな力の前になす術なく生きて行くために変化を受け入れざるを得ない少数派の悲哀、そしてどちらにもそれぞれの事情と正義があり満点の解決策など無いジレンマを、「おもひでぽろぽろ」には大人になってから子供のころを振り返る楽しさや気恥ずかしさやバツの悪さ、大人になってから気づく子供の世界の特殊性と生きづらさ、それでも不便で不自由だった子供時代をなつかしむ楽しみを、「火垂るの墓」は...これが怖いのは今も変わりませんが、日本を含め世界に不穏な空気が流れる今だからこそ、目を背けずに観る必要のあるものだと感じます。

 

 子供の頃の経験から宮崎作品と高畑作品をどこかで区別していた私ですが、こう感じられるようになってからは、どちらの監督の作品も心から楽しめるようになりました。子供時代には子供なりに、大人になってからは大人の目線で、様々な角度で長く楽しめるのもまた、ジブリ作品の魅力だと感じます。

 

 高畑監督の作品を「面白い」と感じられるようになった背景には、私自身がこの20年ほどで様々な経験をしてきたこともありますが、私がその作品を理解するために必要な知識と多角的に物事を見る習慣を身に付けてきたことがあると感じています。私の場合これらはどちらも通訳訓練の過程で育ててきたものです。通訳者は初めて聞く話でも内容を理解できるように日々知識を蓄え、話に参加する全ての話者の立場に立てるように、1つのことを様々な角度から見て考える必要があります。どちらも通訳者にとってとても大切な能力であり、求められる姿勢です。

 

 「通訳者にとって大切な能力」と書きましたが、もちろんこれは誰にでも言えることです。「自分の主張をするばかりでなく相手の立場に立って相手を理解しよう」というのは、誰もが知るコミュニケーションの基本です。そしてその理解に必要なのは、その物事と相手に関する知識です。相手を理解するために常に学ぶ姿勢こそ、コミュニケーションに不可欠なものです。

 

 以前お世話になった英文学の教授がこう話していました。

 

「文学は実学です。これまで歩んできた人生と学んで来たこと全てを使って、その作品の細部に至るまで作者の意図を読み取るのです。」

 

文学に限らず、作品を読む、観る、聴くということは、これもまたコミュニケーションなのです。

 

 多角的視点と知識は人の視野と世界を広げコミュニケーションを円滑にするだけでなく、様々なメッセージが込められた素晴らしい作品たちをより深く楽しむチャンスを与えてくれます。通訳業におけるメッセージは好き嫌いできるものではありませんが、それ以外の部分では「分からないから嫌い」ではなく「分かるために学び、好き嫌いはその上で判断する」、そんな姿勢を大切にして行きたいです。

 

 大切なことに気づかせてくれた高畑勲監督に敬愛の念を込めて。

  

 

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