【私が通訳になるまで20】静岡みかんと初仕事2

 こんにちは、英語同時通訳者オンライン英語・通訳講師の山下えりかです。

 

 今回は前回に引き続き、私の通訳者としての初仕事の本番当日振り返ります。

 

 前日までにできる限りの準備をして迎えた本番当日。緊張と不安と期待とで訳が分からないほどハイテンションになりながら、指定された会場へ向かいました。

 

 会場に到着後、まずはクライアントにご挨拶。事前に地元JAの柑橘課でレクチャーを受けてきた話をすると、担当してくださった方と知り合いだったそうで、「それなら安心ですね」とリラックスした笑顔を見せてくれました。その後カナダからのゲスト3人とも挨拶を交わし、会議室へ。

 

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 会議室内には二十数名のお偉方が既に着席していました。多くの方は通訳の私を見るなり、不安そうな表情を浮かべました。

 

 それもそのはず。

 

 私は顔立ちが幼いため、当時22歳とは言え学生のアルバイトにしか見えなかったと思います。そんなあまり居心地が良いとは言えない空気の中、会議がスタートしました。

 

 最初に私が日本語を英語に訳し始めた瞬間、空気が変わるのを肌で感じました。簡単に表現すると、「あれ、見た目と違う」です(笑)日本人の多くは英語の良し悪しをまず発音の良し悪しで判断します。ネイティブに似せた発音とリズムは私の強味ですから、これがはまりました。「こんな子供で本当に大丈夫なの?」という音無き声は聞こえなくなり、場が落ち着いたのが分かりました。

 

 とは言え私の方の緊張は解けません。会議の1時間半は水を飲む余裕もないほど緊張し通しで、無我夢中で通訳をしました。途中一切休憩なしだったので、1時間を超えたあたりから頭がクラクラしましたが、何とか気合で乗り切りました。頭全体がしびれるほどのハードワークでしたが、やりきった後の爽快感と達成感はそれまでに感じたことの無い幸福感でした。

 

 この仕事は類まれなる幸運に恵まれた仕事でした。具体的に何に恵まれたかと言えば、内容よりも、場所よりも、クライアントです。クライアントは日常会話には困らない程度の英語力の持ち主でした。しかし彼は私が通訳を担当している間は基本的に口を挟まず、専門的な話になった時には私の訳を立てた上で補足をしてくれて、とても通訳をしやすい環境を作ってくれました。クライアントがこの環境を作ってくれると、通訳者は100%の仕事ができます。訳す仕事自体は自分に一任してもらった上で、専門家が内容のチェックと補足をしながら上手くフォローしてくれるのですから。

 

 会議後は同じホテルのレストランでビュッフェスタイルのレセプションでした。ゲスト3人のテーブルに私が一緒に座り、入れ代わり立ち代わり様々な人が話をしにやってきます。最初の一皿を控えめに盛った私でしたが、その一皿を食べることもままならないほどの忙しさ。食事をとりながらの通訳って先輩方はいったいどうやるのかと、不思議でなりませんでした。人の波も落ち着いた最後の頃になってようやく、ゲストたちが「全然食べてないんだから何か取っておいで」と声をかけてくれたこともあり、疲れた脳への糖分補給にケーキを一揃いいただきました。美味しかった(笑)

 

 帰り際、クライアントが声をかけてくれました。

 

 「今日はありがとう。専門的な話にもちゃんとついてきてくれて、本当に助かりました。本当によくやってくれた。また静岡で仕事がある時は是非お願いしますよ。」

 

 初めてのクライアントからいただいた、初めての「ありがとう」でした。この言葉を含めこの数時間の初仕事すべてが、私の通訳人生一番の宝物です。

 

 訓練はとても苦しいけれど、きっとこんなに素敵なクライアントにはそうそう巡り合えないけれど、こんなに楽しくてこんなに幸せな気持ちになれる通訳という仕事は私の天職だと、強く確信しました。この時の感動もまた、その先の苦しい訓練を越えていく支えとなりました。訓練中の早い時期に経験ができて、本当に良かったと思います。

 

 でも最後にひとつだけ、書かせてください。

 

 特に通訳を使う立場の方にお願いです。同時通訳はその疲労度の高さから大抵2人以上で15分交代でやりますが、逐次通訳も同様に疲労度の高い作業です。そして逐次通訳の場合、交代の通訳者がいない場合がほとんどです。その場合1時間にせめて10分程度の休憩は入れていただかないと、オーバーヒートします。その結果訳の精度はどうしても落ちてしまいますから、良い仕事のためにも休憩にはどうかご配慮をお願いいたします。

 

 

 

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